『ご主人さん&メイドさま』

たとえば空から降ってくる、可愛い女の子はいつだって突然だ。メイドオタの主人公のもとへ金髪の美しいメイドさまが訪れるのも、彼の身に覚えはない。美少女との出会いを変態が祝福する。限りなくストレートなエロが物語を展開する。むしろちょっと品がないくらいで、メイドさまを奪還したい奴らとの戦いはなんか脱衣ゲームめいてもいる。性欲剥き出しのメイドオタク……
さて、ライトノベルの冒頭は多くこのように書かれる。ぼくたちはけれどこの唐突さが偽装されていることを知っている。いつもそうだった。どうせ好かれる理由があるんでしょ。偶然はすでに運命化しており、いずれ思い出す過去にこの出会いの契機が隠されているだろうし、メイドオタクという変態さもまた、出会いのエピソードを原因としているのだから、溢れる性欲はむしろ純愛に近づく。そもそもこの物語で空から降ってきたのは誰だった? 能動性の復権
あらすじは、古臭いエロネタを駆使したウェルメイドなボーイ・ミーツ・ガール。そんなことより後半のテンションの高さが素晴らしい。上手い下手じゃない文章芸。超瞬間的快楽。ここにはライトノベルの魂がある。その場の勢いを最高潮に盛り上げるための多様な文体の使い分け。意味よりも効果を追求した演出的文体、そして微かにリズムを刻みながら徐々に振幅をガンガンに萌え狂う独白は括られた声を巻き込んで爆発する。ライトノベルの魂のビート。